2009年10月中旬、韓国・ソウルの韓国カソリック大学を会場にWHO-FICネットワーク会議(WHOの健康関連国際分類の会議)が開かれました。今回は、会議の様子にその後の動きも一部加えて報告します。少々長くなりますが、ご容赦ください。
なお、厚生労働省のICF専門委員会のWebサイトにもその報告資料がアップされていますので、併せてご覧下さい。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/s1204-13.html
このFIC会議には日本から、厚生労働省内の担当者や、委嘱を受けた医療専門家、そしてICFやICF-CYの普及・翻訳に関わってきたメンバー10人程度が参加しました。WHO―FIC全体としては、ICD(国際疾病分類)の関係者が過半数でしたが、ICF関係者も生活機能分類グループ(FDRG)の3日間の会の中で、以下の8つのタスクグループに分かれて進めてきた取り組みの成果を交流し、今後の課題を確認しました。
・タスクグループ1(コーディングガイドライン)
ICFを障害者実態調査や個別支援で活用するための留意点をまとめた「手引き書」の作成を行っている。すでに60ページほどの素案が作成されたが、細かすぎるので本文と付属資料に分けるべきである、ICFの特徴の紹介などはこのコーデイングガイドラインで述べるべきではない、ガイドラインという名称は強すぎるのでガイドとかガイダンスとかにすべきである、サービス利用の受給資格アセスメントの場合の活用方法にも触れるべきではないか、などの意見が出され、引き続き検討することになった。
・タスクグループ2(ICFのアップデート)
ICFの本格的改正(バージョン2)に向けての取り組みは始まっていないが、ICFの分類項目を追加したり、1つの項目を2つに分けたり、2つの項目を一つにまとめたり、例示を増やしたりなどの「アップデート」はしなければならないということで、インターネットも活用したICF改正用のプラットホーム(改正手続きのツールやルールのセット)が完成した。最終的にはFDRG及びURC(分類改正改訂委員会)の投票によって改正提案の採否が決まる。2010年から本格運用予定。
・タスクグループ3(ICDとの関係)
現在のICD(国際疾病分類)はICD-10だが、これを改正してICD-11を作成し、2014年には決定する予定となっている。そのICD-11を作成するツール(i-CAT)が準備されつつあり、そこではすべての病気を10余りの統一した項目(病因など)で定義・説明することになっている。その中にfunctional impact(その病気が及ぼす生活機能への影響)という項目がある。その項目は用語の統一などICFとの調整が必要であり、FDRGに作業協力が依頼された。しかし、心身機能・身体構造はともかく、活動や参加を病気のfunctional impactとしてICDの項目の中に取り入れることには、相当強い反発があり、引き続き検討することになった。
・タスクグループ4(ICFの実行)
すでにドイツのチームなどが中心となって作られた疾患別のICFコアセットはあるが、より一般的に利用可能な(いろいろな疾患に共通して使える)ICFのコアセット(parsimonious set)版がほぼ完成した。12月から2010年3月までフィールドテストを各国のFIC協力センターの協力で行う。その際各国の協力センターはできるだけ障害当事者にも参加してもらうように努力する。その結果をまとめて2010年に完成を目指す。
・タスクグループ5(ICFの教育)
Webでのトレーニングツールを発表した。入門編、専門編などのレベルに分かれ、専門編のほうでは統計、リハビリテーション、権利擁護など分野ごとにモジュールを想定しているが、とりあえずは分野を分けない入門編についてほぼ完成した。今後はFDRGメンバーによるフィールドテストを行いたい意向である。
また、ビギナーズガイドが出来てから10年近くたち、概念の周知からコード化などの活用につながるガイドが必要とのことから、ICF Overviewの作成1年ほど前から進めてきたが、ほぼ完成しつつあり、最終的な検討のためさらにメンバーを追加した。障害者権利条約のモニタリングに役立つであろうなど、ビギナーズガイド以降の状況の変化なども反映させている。また脊髄損傷、パニック障害などの「健康状態」ごとの典型的な状態をICF関連図で示そうとしている。(佐藤は、目の機能障害をメガネで補って、読む活動や大学教員としての参加を成り立たせているという自分自身のICF関連図を送り、採用してはどうかと半分冗談に書いた。)
・タスクグループ6 (倫理と人権)
2009年に引き続き2010年もイタリアでInternational Conference on Disability, Justice and Long-term Careを開催する予定。また、国連から障害者権利条約のモニタリングを要請されている(とくに第25条健康、第26条ハビリテーションとリハビリテーション)。そこにICFを活用したい。さらに、ICFの付属資料6「ICFの使用に関する倫理的ガイドライン」の改正案を来年のICF会議に提案する。
・タスクグループ7(環境因子)
ISO9999との協議を行ったことの報告があった。今ISOは見直しの時期なので、ISO9999とICFとの食い違い(移動の中に椅子から立ったり座ったりを含めるかどうかなど)を是正し、統一を図る協議を急ぐ必要がある。
・タスクグループ8(ICFにおけるターミノロジーとオントロジー)
ICFの分類項目の定義を用いた情報モデルの作成、オントロジーの開発を引き続き検討している。オントロジーの開発というのは、コンピューターが理解できる用語の体系に整理するということのようであるが、どうもよくわからない。
その他、担当タスクグループがあまりはっきりしないが、「個人因子の分類の開発」という作業があり、ここ2年ほどは中断していたようだが、再開する機運となった。作成されれば主観的次元を含める可能性が高いのではないか。
また、活動と参加の区分(ICFでは4つのオプションを提案している)についての実態調査の計画は、取り止めとなった。というより、活動と参加の区分けを含めて、より総合的なICF実行・活用のデータベースをつくろうという計画がタスクグループ4やFICの実行委員会(IC)で出され、そこに含まれることになった。
来年のWHO-FICは10月にカナダトロントで開かれ、その前に6月ころFDRGのみの中間会議も開かれる模様。
以上です。引き続きこのような国際的な動きもできるだけご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。
(国際交流グループ 佐藤久夫)
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