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第48回 日本特殊教育学会参加報告

2010年9月に長崎大学で特殊教育学会が開催され、ICF及びICF-CY(以下、ICF/ICF-CY)に関連した自主シンポジウム、学会準備委員会企画シンポジウム、口頭発表、ポスター発表が行われました。

ここでは、自主シンポジウムを中心に口頭発表・ポスター発表などについて報告します。

自主シンポ  ICFの学校現場への適用 Ⅶ
―ICF活用の実際・「子ども理解」で活用するー

企画者     齊藤 博之(山形県立上山高等養護学校)   
逵  直美(三重大学教育学部附属特別支援学校)
司会者    齊藤 博之(山形県立上山高等養護学校) 
話題提供者 齊藤 博之(山形県立上山高等養護学校)   
逵   直美(三重大学教育学部附属特別支援学校)
下尾直子(日本女子大学)
指定討論者  堺 裕(帝京大学福岡医療技術学部)
       徳永亜希雄(独立行政法人特別支援教育総合研究所)

本テーマ「ICFと学校現場への適用」として、これまで6回の自主シンポジウムが行われ、特別支援教育を中心とした学校教育へのICF/ICF-CYの活用の可能性や方法、成果、課題等が取り上げられてきました。学習指導要領などの改訂により、学校現場でICF/ICF-CY の活用が拡大が予想される中、今回は子ども理解を焦点におき、ICF/ICF-CY の活用前・活用後での実践事例を報告し、討論を行いました。実践をふり返り、ICF/ICF-CYの学校現場への活用の有効性や課題等を考えるシンポとなりました。

【話題提供から】
1 子どもの状態を図にして整理する(齋藤)
子ども理解において様々な情報を得て理解するプロセスが大切であるが、障害名や障害の特性を優先的に捉えるあまり、子どもを取り巻く状況の全体像が見えにくかった。そこでKJ法を参考に情報同士の関係性を図式すると指導の仮説や成果の見通しをもてるようにしたところ、時間短縮の必要性や誰もが作成できるわけでないなどの課題があった。
そこで、ICFの関連図を活用することで、
・インデックスがあり作成しやすく時間短縮になった
・詳細な項目があるので見落としもチェックできる
・事象を項目の何当てはまるのか考えることができる
・参加の姿をイメージしやすくなったという成果が報告され、
課題としては、
・項目の多さ・ICFそのものの理解の必要性
・参加とキャリアの関係についての整理の必要性などが報告された。

2 保護者との連携(下尾)
 ICF-CYを用いた評価は、専門家が行う前に、本人やその代理として養育者が行うことは重要であると考え、東京都立墨東特別支援学校における、ICF-CY6~9章の参加項目に絞った教職員と保護者との面談を行い、その結果を基にICF関連図を作成し、授業シートを作成するという試みが報告された。
関連図においては
・ICF-CYの項目を9章からみることでこれまでなかった着目点が見えた。
・保護者の言葉をコードで示すことで整理しやすくなった。
・コードで示すので、同じ言葉と同じ着目点で記述できた。
また、授業シートづくりでは、
・自分の得意なパターンで授業を組み立てる傾向から、子どもの実態から考えていく過程を加味することができた。
・授業の目標がはっきり見え、先の参加も目標を見据えることができた。などの報告があり、課題として、子どもの主体的な行動につながる授業づくりの検討の必要性、キャリア教育との関係に検討の必要性、保護者へのフィードバックの必要性などがあげられた。

3 キャリア教育に活かすICF ~進路における多職種間連携~(逵)
自らの意思で自らが望む暮らしを選択し、主体的に生きていくことはすべての子どもたちに与えられた権利であり、そのための力を育むことがキャリア教育に求められている。そこで、人間が「生きること」の全体像を捉えようとするICFの活用は有効であると考えた。
ICF活用前は、
・子どもを理解するためKJ法を活用していたが子どもの全体像までは把握できなかった。
・個別の指導計画、教育支援計画、移行支援計画の作成 などを用いての話し合いでは課題や解決の方策を共通理解できなかった。
ICF/ICF-CY活用後は、
・目の前にある事象だけに囚われず子どもの全体像を共通理解し、参加の姿をいかに支援していくかを多職種間で共有できるようになった。
・児童生徒の進路希望を参加の姿と捉え、各書式の情報を関連図にまとめることで短時間で有意義な話し合いをすることができた。
・参加の姿を実現するために、教育課程・授業への創意工夫がなされ、子ども自身が主体的に目標をもって授業に取り組めるようになったなどが報告された。
課題としては、関連図シートの改善の必要性、子ども自身が作成するICF関連図の必要性などがあげられた。

【指定討論】
1 ICF/ICF-CYの活用がもたらすものとは(堺)
あらためてICFの視点をわかりやすく要約したのち、子どもを理解する上でICF/ICF-CYを活用前と活用後ではどのような違いが生じるのか…ICFを使ってよかった部分活用によってどの部分がどのように変わっていったかなどの話題提供者との質疑応答を通して ICF/ICF-CY活用の目指すところについて考える指定討論だった。

2 全国的な動向から(徳永)
ICF/ICF-CYを活用しようとしてきた背景や目的、場面、観点そして活用後の成果や課題について、 国立特別支援教育総合研究所が2009年に実施した調査の報告をもとに報告があった。その後、取り組みの成果や積み上げなどについて話題提供者との間で質疑応答を行い、併せて多くの人の活用を支援するために開発中の電子化ツール等について紹介があった。ICF/ICF-CYを活用するについての実践の必要性を問う指定討論だった。
今回の自主シンポジウムでの議論において、ICF/ICF-CY は、子どもたちをよりよく理解できるものとしての有効性や、さらに子どもたちの未来へいかにつなげていくかがなども話題となりました。話題の一つとしてあがった、キャリア教育とICF/ICF-CY の関係については、子どもたちの姿がいかにかわっていったか、日々の実践をとおして実証していくことが必要ではないかと考えられます。

<口頭発表>
 ICF 及びICF-CY の活用におけるキャリア教育のあり方
 ― 子どもたちの自己実現と社会参加を目指して― 
逵 直美(三重大学教育学部附属特別支援学校)
 進路指導において、卒業後の自己実現と社会参加の力を育むことが求められる中、・子どもと保護者の進路希望の差異・多職種間での連携の必要性・進路選択においての関係者間での生徒の可能性への認識ギャップなどの課題が生じていた。これらの課題解決のため、子どもの全体像を把握し、卒業後の生活を見据え、関係者間で共通理解するために、ICF/ICF-CYを活用した事例について、実践の成果として、・ICF関連図を移行支援ツールとしての活用すること・多職種間での共通理解すること・授業の創意工夫や生徒の変容などキャリア教育への活用等への有効性などが報告された。

 知的障害のある子の母親が卒後に振り返る「学校時代」
 ― ICF-CY で分類した母親のフォーカスグループディスカッションデータから ―
 下尾 直子( 日本女子大学人間社会学部社会福祉学科)
特別支援教育において子どもの支援者と保護者との連携は必須であるが、保護者は支援者への転換も求められている。子どもの学校時代や卒後の姿を保護者間でディスカッションを行った後、TUと呼ばれる語幹ユニットに分割し、ICF-CY用いてコーディングする研究の成果として、保護者から支援者への連携のあり方に関する考察が報告された。

〈ポスター発表ICF /ICF-CY Japan Network 関係者のものを抜粋〉
・ICF-CYチェックリスト開発の試み
 ― 個々の「学習上又は生活上の困難」を把握するために ―
徳永亜希雄他8名
これまでのICF /ICF-CYを活用する実践報告ではチェックリストを初期評価に用いたり、子どもの情報で見落としがないかを確認したりするために用いてきた。一方、文科省は、「障害による学習上又は生活上の困難さ」についてICFとの関連で捉えることの必要性を述べている。このことを踏まえ、ICF-CYの項目を用いたチェックリストは、個々の学習上又は生活上の困難を把握するために有効ではないかの考えのもとで、開発されたチェックリストついて、その開発経過が報告された。

・ ICFの考え方を活用した個別の指導計画作成と授業改善
山元薫他2名
子どもたちの将来の生きたい姿に向けて必要な教育を実践し、学校完結型の授業から生活で「できる」力を育む授業実践ができるように 新しい個別の教育支援計画と個別の指導計画のシステム構築や授業改善が必要であると考えた。そこで多面的・全体的に捉えることができるICFの考え方を取り入れることで子どもたちの生活機能の向上や「参加の姿」の拡大を目指した実践を報告された。
口頭発表とポスター発表とで、ICF /ICF-CY に関連したものが約10本あり、多様な報告がみられました。それらは、ICF /ICF-CYを実践等に使うもの と ICFを実証等の手段に使うものとの大別できると考えられます。

特別支援学校学習指導要領解説「障害の捉え方」としてICFについて記載されたこと等を踏まえ、各地で学校教育活動へのICFの活用が模索されています。今後は、それらの実践上の課題を整理し、活用により子どもたちがどのように変容していったかなどを実証していくことも必要なのではないかと思いました。子どもたちの未来にむけての新たな ICF /ICF-CY の活用を考える学会報告であったと思います。
                                 
           (文責 理解啓発グループ 逵 直美)

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