2016年9月、新潟大学で開催された日本特殊教育学会第54回大会で,ICF-CY Japan Networkのメンバーが関わった自主シンポジウムが行われました。
タイトル:ICFと合理的配慮と特別支援教育(4)
企画者・司会者:徳永亜希雄(横浜国立大学)
話題提供者:西村 修一(栃木県立岡本特別支援学校)
逵 直美(東京都立光明特別支援学校)
齊藤 博之(山形県立ゆきわり養護学校)
堺 裕(帝京大学)
指定討論者:大関 毅(前・茨城県立下妻特別支援学校)
1.企画趣旨
ICFは、WHO国際分類ファミリーネットワーク内において、障害者権利条約との関連でも議論されてきた。中教審初等中等教育分科会報告では、合理的配慮を決定する上でのICF活用についても述べられたが、具体的な実践レベルでの検討は十分になされていなかったことを踏まえ、第51回大会において「ICFと合理的配慮と特別支援教育」と題したシンポジウムを企画し、これまで3回にわたって検討を重ねてきました。
前回大会において、次の3点が課題として共有されました。
第一に、合理的配慮検討は、本人を中心に行われる必要があり、決定に向けた合意形成を行う際は、本人の意見がますます重要である。その活かし方、或いは引き出し方についての検討が必要である。第二に、合意形成以前に、そもそも合理的配慮とはどのようなことで、どこまでを含むのか、あらためて整理が必要である。第三に、合理的配慮提供後の評価や見直しについても検討が必要である。障害者差別解消法施行を控え、その検討がより重要となる。
今回は、これらの課題を踏まえたそれぞれの検討経過報告を軸に議論が深められました。
2.各話題提供の要旨
西村氏は「ICFコアセット・コードセットと合理的配慮」と題して述べました。当事者の意思表明に基づく「合理的配慮」、申し出如何に関わらず学校が個々に応じて用意する「配慮」、及び個々に応じて展開する「特別な指導」といった一人一人に対する特別な教育の在り方を考える時、ICFは有効なアセスメントツールになる、としました。ICFコアセット、コードセットの考え方を導入し、チェックリストによる評価を進めることは、漏れのない客観的な分析をより可能にすると考えられること指摘しました。
逵氏は「将来の生活をより豊かにするための合理的配慮の検討」と題して述べました。卒業生の現状から、学校における合理的配慮の在り方を考えると、生徒の将来像の把握が必要、としました。本人の実行状況と能力を把握し、参加の視点を中心に、環境因子を促進因子にする合理的配慮とは何かを考え、その上で学習上又は生活上の困難を改善・工夫するための教育内容と支援体制として合理的配慮を一考し、個別の教育支援計画、個別の指導計画に活かしながら支援と指導を行っていきたい、としました。
齊藤氏は「日々の授業を充実させるために、どのように合理的配慮と向き合うか」と題して述べました。合理的配慮に関するリーフレット等が作成され、解説や個別の教育支援計画の様式例等が示されているものの、学校育現場、特に特別支援学校での混乱が顕著であり、「特別な支援」と「合理的配慮」が区別されていない印象が否めないことを指摘しました。参加の視点から将来の方向性や課題、目標を設定してきたが、特別支援学校(肢体不自由)では、その対象である「参加(社会)」と相互作用する機会が少なくなっていることを踏まえ、在学中から関係機関と連携した積極的な合理的配慮を提案したい、としました。
堺氏は、「『基礎的環境整備』の観点とICF-CYの適合性の検討」と題して述べた。前大会の合理的配慮の観点に続き、今回は基礎的環境整備の観点とICF-CYの適合性を検討した結果、基礎的環境整備は、ICF-CY の枠組みの中で整理でき、その充実を図るために、ICF-CY を活用できる可能性があることを指摘しました。障害のある幼児児童生徒全体に広く関わる基礎的環境整備が「d815 就学前教育」、「d820 学校教育」に関する活動・参加を促す整備となっているか、という点が重要となると考えられる、としました。
3.指定討論、質疑応答及び総括
大関氏は、「合理的配慮はどこまで教育に反映されるか」と題して、①合理的配慮とは何か、どこまで教育に反映されたか確認すること、②合理的配慮提供の継続可能性が必要であること、③本人の「意思の表明」から合理的配慮は始まるが、その内容は妥当性があるかということを確認する必要があること、についてそれぞれ述べました。
その後、フロア参加者も交えた協議をとおして、全体として次のことが確認されました。
ICF活用について、まず概念的枠組みの使用については、子どもの実態を多面的・総合的に見ること、特に参加の視点から考えられるのが特徴であり、そのことを踏まえて目標設定をするのに寄与できるものといえる、としました。次に分類項目の使用については、見落としなく、多面的に見ることに寄与できる、としました。
合理的配慮とは「スタートラインを揃えるための配慮」として共有されました。合理的配慮の方向性としては、伸びゆく子どもの学びを奪わない、過保護にならないものとなる必要があり、これまでのものに「加える配慮」だけではなく「差し引く配慮」もありえる、としました。
(文責 ICF-CY Japan Network 運営スタッフ代表 徳永亜希雄)
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