スキップしてメイン コンテンツに移動

ICFの特徴をICIDHと比較しながら考えてみよう!

知りたいICF、教えてICF-CY 2

                 

今回のテーマ「ICFの特徴をICIDHと比較しながら考えてみよう! 」

さて、今回はICFの特徴について、従前のICIDH(国際障害分類)と比較しながら捉えて頂ければ幸いです。

まず、ICIDHの誕生とその後の改訂等について「ICF 国際生活機能分類―国際障害分類改定版」(2002)では、以下のように述べられています。
1970年代より、WHO(世界保健機関)において障害に関する分類法について検討が始まり、1980年に、ICD(国際疾病分類)の第9回修正に際して、補助分類として、機能障害と社会的不利に関する分類であるWHO国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps;ICIDH)が発表されました。その後、1990年代より、ICIDHの改訂の検討が始まり、1997年3月に、それまでの数年間に取りまとめられていた提案を基に「ベータ案」が作成されました。この案は1974月の改定会議で提示され、会議の議論をまとめた後に、フィールドトライアルのためICIDH-2ベータ1案として発行されました。ベータ1案のフィールドトライアルは、1997年6月から1998年12月まで行われ、それによって取りまとめられたすべてのデータと、その他のフィールドバックに基づいて、ベータ2案が1999年の夏に発表されました。その後、ベータ2案に対しての様々な意見があり、必要な修正が加えられ、2001年5月、第54回WHO総会において、WHO国際障害分類(ICIDH)の改訂版として、国際生活機能分類(ICF)が採択されました。


図1 ICIDHの障害モデル


図2 ICFの構成要素間の相互作用モデル

次に、従前のICIDHモデル(図1)とICFモデル(図2)を比較しながらICFの特徴を整理していきます。この点について徳永(2005)は次のように述べています。
従前のICIDHモデルは障害を多面的、構造的に理解する視点を示したこと、それを基にした施策が展開されたこと等、大きな功績を残しました。一方で、ICIDHモデルは、その中に「環境的要素が含まれていないために個人の中で完結している」「構成要素間の関連が十分でない」等の様々な批判を受けながら、世界各地での改訂作業が進まれることになりました。このように「医学モデル」として批判されたICIDHモデルからの脱却を図った「社会モデル」「生活モデル」としてICFモデルは人間の生活機能の低下を環境も含めた広い視野でとらえようとしています。

具体的なICFの特徴は、従前のICIDHと比較するとつぎのようになります。
まず1点目は、用語の使い方です。ICIDHでは、機能不全、能力低下、社会的不利という否定的な印象を与える用語を用いているのに対し、ICFでは、それぞれに対応する言葉として、心身機能・身体構造、活動、参加という中立的な言葉を用いています。これらは、マイナス点ばかりに注目しない、中立的な立場から生活そのものについて考える視点に立ったものとなっています。

2点目は、新たな構成要素が加わったということです。ICIDHにはなかった「環境因子」と「個人因子」がICFには加わっています。これらによって、ある人の生活のしにくさの原因をその人の中にある従来の機能不全や能力低下だけに求めるのではなく、外的な環境や、障害に由来しないその人の特徴等との関連も視野に入れてとらえることができます。

3点目は、構成要素間をつなぐ矢印向きについてです。ICIDHモデルが病気から始まって、機能不全、能力低下、社会的不利までの一方通行的な因果関係になっているのに対し、ICFモデルでは双方向の矢印を用い、それぞれの構成要素が互いに影響し合って存在していることを表しています。

以上、ここまでを受けてあらためてICFの特徴としていえることは、マイナスとしての障害の現象だけを切りとって見てしまうICIDHモデルから、まず通常の人間の生活機能から見ていこうとする考え方のモデルが変化しているということです。しかし、ICIDHの考えがあったからこそ、ICFという新たな考え方に繋がる結果に結びついたと考えると、ICIDHが果たした役割は大きかったことは間違いないのではないでしょうか。

今回は、ICFの特徴について、従前のICIDHと比較しながら説明させて頂きました。皆さんのご理解の一助となれば幸いです。

引用文献
・障害者福祉研究会編集、世界保健機関(WHO):ICF 国際生活機能分類―国際障害分類改定版中央法規、2002.
・徳永亜希雄:「ICFと個別の教育支援計画、独立行政法人国立特殊教育総合研究所・WHO編著:「ICF(国際生活機能分類)活用の試み-障害のある子どもの支援を中心に-」、ジアース教育新社、2005.

コメント

このブログの人気の投稿

ICFシンポ&ポスター発表@特殊教育学会 今年は@博多です!

今回は,日本特殊教育学会の案内です.  昨年は,は8月下旬に開催されましたが,今年は9月初旬に開催されます.  会場は,福岡市の福岡国際会議場,会期は,9月6日(金)~9月8日(日)です.  事前視聴動画等はない,久々の対面のみの実施となっています. 本シンポも,昨年度は趣旨説明や話題提供は動画視聴で行い,会場では,指定討論から開始しましたが,今年は,すべて会場で行います.  これまで,教育の文脈でICFの活用に関して検討してきた,私たちの自主シンポジウムについて,あらためて論点を整理し直し,今年はテーマを「共通言語としてのICF活用の再考」として,原点に戻るような議論を交わすことにしました.  詳細は以下の通りです.  自主シンポジウム S4-4 「共通言語としてのICF活用の再考」 9月27日(土)12:30~14:30 ※現在のところ,会場は未定 企画者: 德永亜希雄(横浜国立大学) 司会者: 徳永亜希雄 話題提供者:  徳永亜希雄「就学前から就学後への接続における分類項目活用の試み」 逵直美(東京都立光明学園)「若手教員育成におけるICF活用」 西村修一(前・栃木県立岡本特別支援学校)「共通言語としてのICFとICFコアセットの実践活用」  指定討論者:  山元薫(静岡大学)「学校教育の立場から」  田中浩二(至誠館大学,のあ保育園)「就学前教育・保育の立場から」    加えて,今年も,以下のとおり,ポスター発表を行います. 昨年度の続きである,概念ベースではない,項目ベースでの活用の取り組みです.  P2-62「子どもの育ちを切れ目なく支える個別の教育支援計画へのICF分類項目実装化に関する実証」(德永亜希雄,田中浩二) 9月6日(金)15:30~17:30    ぜひ,論文集でのご確認をいただき,当日参加される方は.会場でも!  プログラムの詳細はまだオープンになっていませんが,今大会の全体像は,以下をご覧下さい.  https://www.jase.jp/taikai62/  (文責 ICF-CY Japan Network 運営スタッフ代表 徳永亜希雄) 

高山恵子氏をお招きして、研修会を行ないました。

12月も半ばにさしかかり、本格的に寒くなってきましたね。 ICF-CY Japan Netwotkでは、8月に、NPO法人えじそんクラブ代表の高山恵子氏をお招きして、研修会を行ないました。 テーマは、「発達障害のある親子の自己実現の支援」〜ICFモデルの理念を活用した挫折をいかすヒント〜 始めに、発達障害のある人の自己実現とは、支援や合理的配慮を受けながら、自分らしさを生かして社会貢献すること。また、挫折した後の成功の快感を増やすことが大切というお話がありました。そして、ICFモデルの理念を、お子さんの実行機能やゲーム依存症への対応、セルフエスティームを高めるための方法などと関連付けながら、具体的にわかりやすくお話をしていただきました。 どの事例も興味深く、2時間があっという間でした。 事後のアンケートでは、ICFについてよく知っている方、ICFをまだよく知らないという方双方から、貴重な学びの機会になったというご意見をいただきました。 令和6年4月1日からは、事業所における合理的配慮の提供が、努力義務から義務化に変更となります。今後も、多くの方が、ICFモデルの理念や内容、活用方法などを学び、適正な合理的配慮が推進されることを願っています。 (文責 ICF-CY Japan Network 大久保直子)